TX車両の大規模な検査は総合基地の工場で行われます。ここでは入場時に3両が全般検査、3両が重要部検査を受けており「全重検」と呼ばれます。
京王電鉄など、他にも全重検を行う事業者があるものの、大多数の会社では、全般検査、重要部検査は各編成一括で行われるのが普通です。ここでは、全重検のメリットを推測します。
TX車両の検査体系
工事誌時点での検査体系であり、15年の間に改訂が行われている可能性がありますが、TXの車両は走行距離による制約で、60万キロごとに入場しています。
最初の入場で、片側3両が全般検査、残り3両が重要部検査を受けることで、各車両が入場時に、全般検査と重要部検査を交互交互に受ける形となっています。
全重検のメリット
検修設備の稼働率を一定に保てる
TX車両の全重検は入場から本線試運転まで17日間(休日以外)で行われます。「重要部検査では発生せず、全般検査のみで発生する仕事」は、この17日間で3両分来ることになります。(厳密には車両と部品の組み合わせが変わる振替検査もあり、単純に17日で終わらせているわけではありませんが…。)
全重検を行わない場合、全般検査の編成が入場すると17日間で6両分の仕事が来て、重要部検査の編成が入場すると17日間仕事が無い状況になります。
このような波動が発生すると、極端に言えば「全般検査のみで発生する仕事」の検修設備は2倍の規模が必要となり、半分は遊んでいるような事態になります。
検修コストを一定に保てる
費用も同じで、TXの開業用新製車両は一斉に営業投入されており、仮に全重検を行わないと、2年半くらいのスパンで、全般検査の波、重要部検査の波が交互に到来することになります。2年おきに検修費用が変わってしまうと、経理上も問題が発生することになります。
前項の検修設備も、2年半フル稼働して、2年半遊休するような状況となります。
もちろん、実際に全重検を行っていない事業者では、検査を先取り(前倒し)することで、年度内の全般検査、重要部検査の本数を一定に保つように工夫しますが、限界があります。
全重検が普及しない理由
前章から、全重検には多大なメリットがありそうですが、多くの事業者では行われていません。
他の事業者では、工場の規模が大きく、検査種別の波動は吸収できることが多いです。また、車両の投入時期がまちまちで、このような工夫が成り立たないことが多いです。
TXのように、経年の近い車両がまとまっていて、規模が大きくも小さくも無い、特殊な条件でメリットが生まれるのが全重検のようです。
車体更新場でも?
波動が発生すると困る設備として、車体更新場が挙げられます。
現在進められている車体修繕は、手の入れ方としては小規模ですし、経年的には機器更新やリニューアルなどを行ってもおかしくない時期です。
一気にフル更新すると、車体更新場への入場期間が延びてしまい、一斉に営業投入された開業用新製車の更新が長期間に渡ってしまいます。そして、この期間を短縮するためには、車体更新場の規模をより大きくする必要(=数年稼働して、残りは遊休…)が出てきます。
車両の修繕を小分けにして段階的に進めていくことで、車体更新場についても、長期間、安定的な業務量を維持することを狙っているのではと推測しています。